2002年、7月14日、日曜日、20時過ぎ、ドジャースタジアム。
“ブルー” であるはずのスタジアムは “ホット”、熱気と歓声で一杯。
チームがアリゾナに勝利するまで、あとアウト3つ。 9回表。
このまま行けばwinner pitchは石井、メジャー1年目の日本人。
ストライク一つ取ると大歓声。アウト一つ奪うと地鳴りのような大歓声。
地元ロサンゼルスのファン達は、ほとんどがスタンディングオベーション。
席に座ったままでホットドッグをほおばっていた。すると、
2メートルほど斜め前の男性がふと、そんな私に気づき声をかけてきた。
「Baseball ! Baseball ! 」
いたって真顔、決して怒ってはいないが真剣だ。
見ろ!ちゃんと見ろ!野球に集中しろよ!・・・とでも、言いたげである。
空腹だった私は、試合の顛末よりも、名物ドジャードッグを口に運ぶ事の方に大忙し。
「Y、Yeh ! ・・・ 」
口をモゴモゴしながらの私の返事に、返ってきた。さらなるお叱りが。間髪いれずに。
「ヤキュウ!ヤキュウ!」
今度は何と、日本語だ。
そして、さらに続いた。「イシイ!イシイ!」
イシイを応援しようぜとばかりに、両腕を広げ、さあ、さあ、と。
野茂投手の大ファンではあるが、石井投手にはごく普通の声援を送る程度だ。
しかし、この“熱いドジャー”には“熱い気持ち”を与えられた。ホットドッグを止め、立ち上がった。
すると、真顔だった彼の表情がフワーっと柔らかくなった。
日に焼けた顔を、ニッコリさせていた。
「Good ! Good ! Good ! 」
すごい。
地元のチームを真剣に応援し、遠い異国から来た選手へも、心から応援する思いやり。
彼らにとってのBaseball、スポーツは、生活の一部なのだと聞いた事があるが、本当だと思った。
実力がメジャーであるだけでなく、ハートが、精神がメジャーなのだ。 選手も。観客も。スタッフも。
“Dodger dog”は、熱く応援する手に相応しいのだろう。だから“名物”なのかもしれない。
彼らに学ぶ事は、とても多い。
試合後、ファミリーの元へと家路を急ぐ選手達が多い、と聞く。
観客も同じだった。不必要にスタジアムには残らない。友や家族と明るくパーキングへと向かう。
興奮気味に、楽しげに会話をしながら、歩く親子の姿が印象的である。
Dodgers cap を被った男の子の頬が紅潮している。
勝っても負けても、語らうのだろう。
ドジャードッグは中途だったが、とても胸いっぱいの気持ちになった。
あれから、10年。
今でもきっと、“Dodger dog”を片手に真剣な声援が響いているのだろう。
そして、あの男の子は青年となり、自分のグラウンドに立っているのだろう。